◆azwd/t2EpEによる雑記です。 自由気ままに書いてみます。
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 それからおよそ十日後。
 男は死に物狂いで荒野を越え、ようやくカシアスに到達した。

「おぉ……麗しのカシアスよ……今なら君と結婚できるぜ……」

 町に対して求婚する男は、まず酒場に向かった。

 皆が昼食を取るであろう時間はとうに過ぎており、しかし夕食を取るような時間でもない。
 酒場は、コップを置く音さえ響きわたりそうなほど、閑散としていた。
 だが、店主は忙しく動き回っており、夜の客のために準備を整えているのだろう、と男は思った。

「準備中か?」

 男の声でようやく、店主は振り返った。
 頭頂は禿げかかっているが、髭や体毛は濃い。

「あぁ、すみません。気づきませんで」

「いや、いいんだ」

「営業中ですが、今はお出しできるものがありませんでね」

「それもいいんだ。水と、情報さえくれれば」

「……ほう」

 カウンター席に荷物を置き、その隣に男は腰掛けた。
 店主は樽から水を汲んで、少々手荒く透明なコップを男に差し出す。
 コップの縁は薄ら汚れていた。

「酒場で情報を求めるのは、ハンターか、クエスターか」

「もしくはワンダー、って言いてぇんだろ」

 店主は、不思議な笑みを浮かべていた。
 フサギコの言葉に、呼応しているのかどうか、誰にも分からないような。

「ワンダーですかい……お客さん」

「まぁ、滅多にワンダーらしい仕事はしねぇんだけどな」

「しかし、ワンダーにしては随分、スマートじゃねぇ格好ですなぁ。髪もボサボサで」

「マグネットでこの町に来ようとしたら、前の町に戻されちまったんだよ。
 しばらくまともな生活してねぇから、こんな身なりになっちまってんだ。
 しかし、もったいねぇことした……最後のマグネットだったのに」

「そりゃあ災難で。Lv.1ですかい?」

「Lv.2以上なら前の町に戻されるわけねぇだろ。方角を指定できるからな。
 いや、実はLv.2を持ってんだが、諸事情で使えねぇんだ」

「最近距離にいる人の元へ飛ぶ――――それだけじゃあ、前の町に戻されても仕方ねぇこって」

「この町のほうが近いと思ったから使ったんだが、大誤算さ。もう思い出したくねぇな」

「それで、ワンダーがこんなとこに何の用ですかい。
 ここにゃあハイレベルカードなんてありゃしませんぜ」

「カードそのものは求めちゃいねぇよ。ここにゃあワンダーさえ一人もいねぇだろう」

「仰るとおりで。ワンダー崩れみたいなやつが居る程度でさぁ」

「俺はフィストラトスに登りてぇんだ」

 男はコップを手に取り、傾けると、一気に水を飲み干した。
 しかし、空の容器に店主が水を注ぐことはない。
 男の言葉に呆然としてしまっているからだった。

「この町の西にあるだろ、あのバカでかい山だ」

「本気……なんですかい?」

「自殺志願者を見るような目だな」

「……まぁ、そりゃそうです」

 店主は、考えごとの間を欲するかのように、ゆっくりとコップに水を注いだ。

「しかし……何のために?」

「秘密だ。あんまり語りたくねぇ」

「……おひとりで、ですかい?」

「いいや」

 男はまたも、コップの中身をすぐさま空にする。

「シッターを探してる。この町では、それが目的だ。
 シッターがいなきゃ、フィストラトスに登んのなんか到底ムリだしな」

「……シッター」

「あぁ、知ってたら教えてくれねぇか?
 雇われシッターの一人くれぇ、いるんじゃねぇかと思ってんだが」

「いや、この町にはシッターなんぞ居やしませんね」

 店主は、男から目を逸らしながら、ぴしゃりとそう言った。
 まるで、半ば焦っているかのように。

「……いねぇのか?」

「居ません」

 男の確認も店主は突っぱねる。
 時折、目を伏せながら。

「……そうか、残念だな」

 肩を竦めるような仕草を男は見せた。
 空になったコップを弄びながら。

「……あぁ、でも」

「ん?」

「シスターなら、います」

 店主は、やはり思案顔を崩さなかった。

「シスター? シッターじゃなくて、か?」

「えぇ」

「一字違いでえらい違いだぜ。俺は人にモノをやるのが嫌いなんだ。
 祈りだって、神になんか捧げるつもりはねぇぜ」

「この町のシスターは、神になんぞ仕えちゃいませんぜ」

 店主は、吐き捨てるように言った。

「そうなのか? じゃあ、何に仕えてんだ」

「神なんか、いるわけねぇんです」

 店主は、答えにならない答えを出した。
 半ば、独り言のように。

「……まぁ、なんでもいい。情報ありがとな、助かった」

「もう、行かれるんですかい?」

「あぁ、邪魔したな」

「じゃあ、最後に」

「ん?」

「最後に、名前を教えてくださいませんかね」

 またも、呟きのような声。
 店主はやはり、最後まで、晴れやかでない顔だった。

「フサギコ。フサギコ・ティレルだ」

 いくらかの金銭をカウンターに置いて、フサギコは店主に背を向けた。


 バーから出たフサギコは、しばらく当て所なく町を歩いていた。
 煉瓦作りの家が建ち並ぶ道には、人の姿が極端に少ない。
 市場は別のところだろうか、とフサギコは考えたが、しかし。

「……声もしねぇな」

 町はさほど広くない。
 フサギコがゆっくり歩いても、三時間あれば一周できる程度だ。
 市場に人が集まっていれば、町のどこでも声は聞こえる。

「腹減ってきたんだけどな……どうすっかな……」

「……それにしても、ひっそりしてんなぁ……」

 ひとりでに音が鳴る腹をさすりながら、フサギコは周囲を見回した。
 家のなかに人の気配を薄ら感じ取ることはできていた。

(……みんなで家に隠れてんのか? んなまさかなぁ……)

「町を襲う賊でもいるのかもな、ははは」

 空腹で笑い声にも力が入らない。
 そんな自分を空しく感じながら、フサギコは飯屋を探しつづけた。


 無論、フサギコは知る由もない。

 この町を覆っているのは、恐怖などではなく、それよりも遥かに、重苦しいもの。


 いわゆる、諦念だということを。


 その3へ




追記を閉じる▲
 それからおよそ十日後。
 男は死に物狂いで荒野を越え、ようやくカシアスに到達した。

「おぉ……麗しのカシアスよ……今なら君と結婚できるぜ……」

 町に対して求婚する男は、まず酒場に向かった。

 皆が昼食を取るであろう時間はとうに過ぎており、しかし夕食を取るような時間でもない。
 酒場は、コップを置く音さえ響きわたりそうなほど、閑散としていた。
 だが、店主は忙しく動き回っており、夜の客のために準備を整えているのだろう、と男は思った。

「準備中か?」

 男の声でようやく、店主は振り返った。
 頭頂は禿げかかっているが、髭や体毛は濃い。

「あぁ、すみません。気づきませんで」

「いや、いいんだ」

「営業中ですが、今はお出しできるものがありませんでね」

「それもいいんだ。水と、情報さえくれれば」

「……ほう」

 カウンター席に荷物を置き、その隣に男は腰掛けた。
 店主は樽から水を汲んで、少々手荒く透明なコップを男に差し出す。
 コップの縁は薄ら汚れていた。

「酒場で情報を求めるのは、ハンターか、クエスターか」

「もしくはワンダー、って言いてぇんだろ」

 店主は、不思議な笑みを浮かべていた。
 フサギコの言葉に、呼応しているのかどうか、誰にも分からないような。

「ワンダーですかい……お客さん」

「まぁ、滅多にワンダーらしい仕事はしねぇんだけどな」

「しかし、ワンダーにしては随分、スマートじゃねぇ格好ですなぁ。髪もボサボサで」

「マグネットでこの町に来ようとしたら、前の町に戻されちまったんだよ。
 しばらくまともな生活してねぇから、こんな身なりになっちまってんだ。
 しかし、もったいねぇことした……最後のマグネットだったのに」

「そりゃあ災難で。Lv.1ですかい?」

「Lv.2以上なら前の町に戻されるわけねぇだろ。方角を指定できるからな。
 いや、実はLv.2を持ってんだが、諸事情で使えねぇんだ」

「最近距離にいる人の元へ飛ぶ――――それだけじゃあ、前の町に戻されても仕方ねぇこって」

「この町のほうが近いと思ったから使ったんだが、大誤算さ。もう思い出したくねぇな」

「それで、ワンダーがこんなとこに何の用ですかい。
 ここにゃあハイレベルカードなんてありゃしませんぜ」

「カードそのものは求めちゃいねぇよ。ここにゃあワンダーさえ一人もいねぇだろう」

「仰るとおりで。ワンダー崩れみたいなやつが居る程度でさぁ」

「俺はフィストラトスに登りてぇんだ」

 男はコップを手に取り、傾けると、一気に水を飲み干した。
 しかし、空の容器に店主が水を注ぐことはない。
 男の言葉に呆然としてしまっているからだった。

「この町の西にあるだろ、あのバカでかい山だ」

「本気……なんですかい?」

「自殺志願者を見るような目だな」

「……まぁ、そりゃそうです」

 店主は、考えごとの間を欲するかのように、ゆっくりとコップに水を注いだ。

「しかし……何のために?」

「秘密だ。あんまり語りたくねぇ」

「……おひとりで、ですかい?」

「いいや」

 男はまたも、コップの中身をすぐさま空にする。

「シッターを探してる。この町では、それが目的だ。
 シッターがいなきゃ、フィストラトスに登んのなんか到底ムリだしな」

「……シッター」

「あぁ、知ってたら教えてくれねぇか?
 雇われシッターの一人くれぇ、いるんじゃねぇかと思ってんだが」

「いや、この町にはシッターなんぞ居やしませんね」

 店主は、男から目を逸らしながら、ぴしゃりとそう言った。
 まるで、半ば焦っているかのように。

「……いねぇのか?」

「居ません」

 男の確認も店主は突っぱねる。
 時折、目を伏せながら。

「……そうか、残念だな」

 肩を竦めるような仕草を男は見せた。
 空になったコップを弄びながら。

「……あぁ、でも」

「ん?」

「シスターなら、います」

 店主は、やはり思案顔を崩さなかった。

「シスター? シッターじゃなくて、か?」

「えぇ」

「一字違いでえらい違いだぜ。俺は人にモノをやるのが嫌いなんだ。
 祈りだって、神になんか捧げるつもりはねぇぜ」

「この町のシスターは、神になんぞ仕えちゃいませんぜ」

 店主は、吐き捨てるように言った。

「そうなのか? じゃあ、何に仕えてんだ」

「神なんか、いるわけねぇんです」

 店主は、答えにならない答えを出した。
 半ば、独り言のように。

「……まぁ、なんでもいい。情報ありがとな、助かった」

「もう、行かれるんですかい?」

「あぁ、邪魔したな」

「じゃあ、最後に」

「ん?」

「最後に、名前を教えてくださいませんかね」

 またも、呟きのような声。
 店主はやはり、最後まで、晴れやかでない顔だった。

「フサギコ。フサギコ・ティレルだ」

 いくらかの金銭をカウンターに置いて、フサギコは店主に背を向けた。


 バーから出たフサギコは、しばらく当て所なく町を歩いていた。
 煉瓦作りの家が建ち並ぶ道には、人の姿が極端に少ない。
 市場は別のところだろうか、とフサギコは考えたが、しかし。

「……声もしねぇな」

 町はさほど広くない。
 フサギコがゆっくり歩いても、三時間あれば一周できる程度だ。
 市場に人が集まっていれば、町のどこでも声は聞こえる。

「腹減ってきたんだけどな……どうすっかな……」

「……それにしても、ひっそりしてんなぁ……」

 ひとりでに音が鳴る腹をさすりながら、フサギコは周囲を見回した。
 家のなかに人の気配を薄ら感じ取ることはできていた。

(……みんなで家に隠れてんのか? んなまさかなぁ……)

「町を襲う賊でもいるのかもな、ははは」

 空腹で笑い声にも力が入らない。
 そんな自分を空しく感じながら、フサギコは飯屋を探しつづけた。


 無論、フサギコは知る由もない。

 この町を覆っているのは、恐怖などではなく、それよりも遥かに、重苦しいもの。


 いわゆる、諦念だということを。


 その3へ



【2008/12/22 22:55】 | 貞子祭り
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名無しさん
なんか初期の頃のブーン系っぽいな。

前に言ってた誰もやってないだろう形式ってやつ?
AAなしでブーン系?



名無しさん
最近距離より最短距離のほうがいいのでは


名無しさん
・シリアルキラーでAAなしはやられてる
・最短距離より最近距離のほうがしっくりくるような気がする

シスター…聖職者…オランダ妻?


名無しさん
AAなしは作者もドクオ策略で既にやってるよね
誰もやってないだろう形式は別の話っぽい

でも何となく新鮮な感じがする


名無しさん
wktkが止まらん

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コメント
この記事へのコメント
なんか初期の頃のブーン系っぽいな。

前に言ってた誰もやってないだろう形式ってやつ?
AAなしでブーン系?
2008/12/23(Tue) 02:43 | URL  | 名無しさん #-[ 編集]
最近距離より最短距離のほうがいいのでは
2008/12/23(Tue) 08:48 | URL  | 名無しさん #4JcWZNxE[ 編集]
・シリアルキラーでAAなしはやられてる
・最短距離より最近距離のほうがしっくりくるような気がする

シスター…聖職者…オランダ妻?
2008/12/23(Tue) 13:46 | URL  | 名無しさん #-[ 編集]
AAなしは作者もドクオ策略で既にやってるよね
誰もやってないだろう形式は別の話っぽい

でも何となく新鮮な感じがする
2008/12/23(Tue) 15:28 | URL  | 名無しさん #-[ 編集]
wktkが止まらん
2008/12/23(Tue) 16:55 | URL  | 名無しさん #-[ 編集]
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